社長、儲かってないのに、いい車乗ってますね? ~新聞は記事にならない話が面白い~

ライター事務所「つむぎや」のアキラ(@510tsumugiya)です。

このコラムシリーズでは、僕が新聞記者時代に見聞きしながら、新聞には載せられなかったエピソードを紹介しています。

今回は1990年代、僕がまだ20代のころの話。

舞台は、日本を代表する中小企業集積地の大阪府東大阪市。

「まいど1号」が飛ぶ前の話。

ですが、確か当時から「みんなで力合わせれば、ロケットぐらい飛ばせるで」と話していた人はいました……。

武士は食わねど高級車? 日本を代表する中小企業の街・東大阪

その社長には、一週間ほど前にご飯をごちそうになっていました。

「社長、先日はごちそうさまでした!」

開口一番、お礼を言うのが筋だと元気いっぱい笑顔で言うと、社長がじろりとこちらを見ました。

「竹内君なあ」

「はい」

「そういうのは、ごちそうになった翌日にでも、すぐ言うもんやで。電話の一本ぐらいかけられるやろ」

「……すいません」

「まあ、ええ。ほな今日は昼ごはんでも行こか。車に乗りや」

「はい」

時々厳しいことを言う社長ですが、あたたかい人です。

僕が助手席に乗ると、社長自らがハンドルを握りました。国産高級車。最高な座り心地です。

「ほな行くで」

車が、なめらかに発進しました。

「君、何年目や?」

町工場が立ち並ぶ悪路を進みますが、社長の高級車は、ほとんど揺れません。さすが高い車。感心。

「社長、そういえば、あそこの●●社長の会社、儲かってるんですか?」

「なんでや? それほどでもないやろ。むしろ苦しいんちゃうか」

「ですよね。でも、●●社長も、これと同じ高級車に乗ってるんですよ。これめっちゃ高いですよね?」

「せやな。800万円ぐらいや」

「そんなに! というか、●●社長に限らず、この東大阪の中小企業の社長さんって、みんな申しわせたように高級車乗ってますよね」

「せやな」

「●●社長なんて、工場もボロボロだし、普段は作業服も着替えているのか、っていうくらいですよ。なのに高級車だもんな。見栄張っているですか?」

「なあ竹内君」

「はい」

「君、記者になって何年目や?」

「ハイ?」

車はなめらかに進み続けます。

「もっと勉強せなあかんで」

「えっと、まだ記者になって二年目です」

「そうか。君な、けっこう目が横に動くやろ。なんだかんだと目をきょろきょろさせて、いろんな情報を集めようとしてるんやろな。なかなか記者らしくて、ええな、と思ってたんや」

「あまり意識していないんですが……ありがとうございます」

「でもな竹内君、あんたまだまだやな」

「何がですか?」

「仮に君がどこかの営業マンだったとしてやな、この辺の中小企業の社長のおっさんと商談するとするやろ」

「はい」

「もしその社長がやな、ボロボロのカローラに乗って来たらどない感じる?」

「……」

「このおっさんの会社、大丈夫か? 車ボロボロやし、つぶれんるんちゃうか? 金払っても、ちゃんと納品してくれるんかいな――。そんな風に思われるんちゃうか」

「……確かに、そうです……」

「武士は食わねど、っていう感じの見栄とかちゃうねんって。車も営業ツールや。カネはなくても悟られたらアカンのや。ええ営業マンは、その辺のところをよう見とる」

「…………はい」

「そないしょんぼりすんなって。もっと頑張って、この町のこと勉強して、いい記事書いてや」


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